tokyo_submarine_airport_19992006_02 Tokyo Submarine Airport 1999-2006 02 (February 13, 2006)

 僕はある計画を考えていた。

 彼女の夢を最初に運んだのは、三年くらい前の事だった。ガラスで精巧に作られた、何かを拒絶しているハリネズミのように簡単に壊れてしまいそうなタイプの夢だった。飛行機に載せるためにとても丁寧で慎重な梱包が必要だった。彼女の夢の中では、小人みたいな生き物が手紙を誰かに向けて送っていた。あるいはそれは彼女自身に送っていたのかもしれない。それはボトルに入れた手紙を無人島から海へ流すのに似ていた。僅かな希望と、自分への補完、あるいはメッセージ。小人は手紙を持つとくるくると回り、消えた。どこかに転送していた。

 僕は出来る限り仕事をきちんとこなし、なるべく彼女の夢を運べるようにした。それでも彼女の夢を運べる機会は少なかった。僕の担当する範囲は狭くなかったし、彼女はあまり眠れなかったのだ。悩んでいて、とても疲れていた。深く眠り影は薄く、その結果夢は少なかった。
 一ヶ月ほど前、僕が寝ているとあの小人が現れた。本当はありえない。でも小人は僕の前に現れた。くるくる。ビンの中に水を入れてやがて満杯になる時のような音がして、軽い耳鳴りがした。
 小人がくれたメッセージはイメージの固まりのようなものだった。僕はできる限りそれを読み取ろうとした。
 彼女は悩んでいた。好むと好まざると関わらず彼女のまわりの男の子はほとんどみんな彼女に惹かれた。彼女は十代の男の子たちが夢中になる魅力をほとんど持っていた。その中に隠した本質的な見極めの良さや、きれいに回る頭は笑顔ではぐらかし、自分を抑え、ますます男の子たちは夢中になった。どの男の子もみな同じように見えた。誰かを好きになると何かのバランスが崩れてしまいそうで怖かった。彼女の女の子の友達は、どこかで彼女をうらやんでいた。いつも彼女と友達の間に、うまく見繕っていてもそれは薄い霧のように漂っていた。毎日は特に問題無く流れたが結局のところ、それらは表層を流れる空気でしかなかった。どうやれば誰も傷つけずに自分も傷つかずに、表層だけじゃない本当の生活が出来るのかわからなかった。母親とネコのケイがたまに本当の話し相手だった。ケイは気まぐれで、それは彼女をほっとさせたけれど、彼女の求めているある部分は彼らとの会話では見えてこなかった。
 メッセージの中に英語を習い始めたばかりの彼女のメモがあった。
 Who can you trust? Anything can happen.
 これはきっとこう訳してもかまわないだろう。「誰も信じるな。想像している以上に良く無い事だって起こりうる。」
 小人が送ってきたイメージは、細かく見るとどうすればよいのかわからないもやもやしたものだった。周りとのバランスを崩す事を嫌った彼女はやはり、自分の表現方法がわからなかったのだと今では思う。僕にとっても世界は狭く、彼女にとっても彼女の周りだけがその世界を構成している要素だったのだ。僕は彼女の夢を見る度に彼女を助けたいと思った。でもその時は当然何も出来なかった。本当は世界はとても広いし、誰かを傷つけずに自分を表現する事はとても難しい。ある程度の犠牲は許容する必要があるのだ。
 そして僕の計画はいい加減な完成度で実行された。あとになって考えてみればそれはいい事だったのだろう。もう少し綿密な調査を行っていたら、僕は実行しなかったと思う。
僕は彼女の夢に入った。それは簡単な事では無かった。僕はもう、海には帰れない。彼女の夢の中で、彼女が僕を見つけ出し、地上に降ろしてくれる以外には僕がこの先存在する方法は無かった。僕は彼女を助ける。そして同時に僕の長い間の夢を叶える。すなわち、地上に出る。
僕にとっての世界は、海の中で飛行機を操って夢を運ぶ事で生活をし、休日は他の飛行気乗り達とビリヤードをしたり、本を読んだり、様々な光の海の写真を撮る事だった。でもそれでは僕の夢はいつまで経っても実現しないし、それ以上に僕の世界は全く変わらなかった。
僕はよく、周りの人から変わってると言われた。確かに僕には僕なりの考え方があって、みんなが見ているテレビやそれに付随している流行の音楽についての知識はほとんど無かったし、そのせいで様々な事を知らず、同時にその他の様々な事に費やす時間があった。会話に入れない事もしばしばだったし女の子とのデートもうまくいかなかった事もある。でもそれについて一番の友人はこう話した。
『「変わっているか、変わっていないか」 そんな事はどうでもいい。 大切なのは 「変われるか、変われないか」だ。』
確かに。
 夢の中で僕が彼女に出会ったのは彼女の夢に入ってから二日目だった。僕が仕事をしていない今、夢は夢として彼女の中に留まり、やがて強みを増す。誰かが僕のいない事に気付いて、彼女の夢を飛行機で運んでしまう前に彼女に地上に降ろしてもらわなければならなかった。僕の担当する範囲の夢運びはあと十日交代しない。そういう時期を選んだのだ。僕は仕事をとてもよくこなしていたので、信頼されていた。十日間はほぼ確実に時間があった。



February 13, 2006 4:05 PM | E
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