tokyo adrift 2006 05

2

 浮遊感ばかりで何をやっても満たされなくて、どこかに虚がある。確かに生活感は
消そうと努力している。何か現実感が無い。

 代官山や青山の地下できちんとしたウォッカの入ったモスコミュールで、
あるいはトマトジュースの入ったブラディーマリーで適度に酔っ払い、
ペットボトルに詰められた冷たい水とともに、あるいはタバコの煙とレーザー光線の中で
曖昧に踊って酔いを醒ました後に、246や旧山手通りに路上駐車した
僕の新しいミニクーパーはオープンカーで、しかも4シータだったから
女の子2人組みも乗せる事が出来た。

 基本的に自分からは話しかけないので、当然、女の子を連れ出せる事は希だったけれど。

メインの仕事がコーディングだったからからかもしれない。
ほとんどのやりとりをメールでしていたからかもしれない。

 1日中PCの前でキーボードを柔らかに打ち続けているせいで、
思考そのものがQWERTY配列のキーボードで行われてしまい、
自分の思考スピードがタイピングスピードを超えられなくなったという思いに
囚われている。
その反動かもしれない。僕はふとした瞬間に、急激に向かってくる眠気とともに、
暗闇の中で頭の中で同時に3つくらいのストーリーが文字で進んでいる状態に
になる事があった。それらはいつも曖昧で何でも無かった。
それぞれの繋がりはないし一度には一つのかけらしか読めないので
自分では全く意味がわからない。文字が、僕の頭の中を支配していた。

 とにかく、僕は女の子とのやりとりとか、同時に何人かの女の子の彼氏になる事に
すでにうんざりしてしまっていたけど、でもやめる事は出来なかった。
クラブに行くのは先月やめた。タバコの煙にうんざりしていた。

 そう。サキに初めて会ったのは2ヶ月くらい前だ。
僕はめずらしく気に入った曲が立て続けにかかっていたので
ほとんど踊る事に集中していた。
僕の目の前で綺麗に楽しそうに踊っていたのがサキで、
ステップに合わせて華奢な体が周囲の空気をかき回していた。