B1_003 地下1階

同じような真っ白い空間でかろうじてわかる正面の扉をあけると、
そこに廊下があった。

左右の壁はコンクリートのむき出しで、
床はコンクリートに何らかのコーティングがしてあるような
灰色の床だ。
天井からは監視カメラがつり下がっており、LEDが不規則に明滅している。
LANケーブルが見える。

廊下は20mくらい直線で延びていて遠近法の練習をしているような
視界になっている。天井からは規則正しい間隔で蛍光灯が埋め込まれている。
天井高さは3mくらいあるだろうか。廊下の幅もそれくらいある。

私はまっすぐ進み出した。
このような広い無駄なような空間がなぜ地下に広がっているのかよくわからない。
表示は何もない。
10mくらい進むと、唐突に左側への廊下が見える。やはり10mくらいの廊下が
左手に伸びている。

T字の真ん中にいることに気づく。
ここで道が折れ曲がっていると言うことに、歩き始めたときには全く気づかない。

歩きを進めると、正面から足音が聞こえてくる。

止まると足音が止まり、
これが自分の足音であることに気づくまでに5歩くらいかかる。

音が奇妙に反射している。
廊下は行き止まりだ。

と思って行き止まりまで行くと、
左側にまた道が唐突に現れる。やはり10mくらいの距離で
廊下が続いている。

ここで確か右側だ。

右側にはコンクリートの壁だが、よく見るとコンクリートを貼り付けた
扉があることに気づく。

扉を開けると、そこに先ほどと同じような男性が立っていた。

「お待ちしておりました。」

私はエレベーターで1階から地下1階までの時間がかかったこと、
そして衝撃について彼にまず報告した。報告する義務があるように思えた。

私どもの建物では地下1階が地上6階に相当する深さを持っています。
そのため到着までに時間がかかるのです。
エレベーターは非常に大型のため、これは世界最大の大きさなのですが、
5本のワイヤーロープで支えられております。
これは通常のエレベーターと違い、この大きさのエレベーターでは
荷の位置により重心が変る可能性があることから、重りの位置の微調節
によって重心の偏りを打ち消すのです。
ご存じかと思いますが、エレベーターは通常滑車で
重りと箱をつるし、物理的に位置エネルギー0の状態にしておきます。
その5つの重りがすれ違う箇所が地下1階と1階の間で生じており、
これはメーカーのミスですが重りが接触しているのです。
それによる音、及び振動が伝わったのでしょう。

そういった事を男性は淡々と説明した。

続く